社員ブログ

ある女『K』

ある女性がいる。仮に『K』としておこう。
とある商社の滋賀営業所に勤めている32歳の営業マン『D』の妻である。
現在は、1歳になったばかりの娘の子育て奮闘中だ。
『K』は今日は気分が良かった。なぜなら3月の下旬にしては暖かく、天気も快晴であったから。
気分は天気に左右されるというのは本当のようだ。
「よし。今日は天気が良いので、布団を干そう!」『K』は思った。
娘を寝室に連れて行き、その寝室からベランダへ出て物干し竿に布団を干すことにした。
娘がまだ1歳なので、目を離すことができないので、寝室に閉じ込めておいた。
寝室とベランダの間はガラスの戸になっていて、『K』がベランダから寝室を覗くと娘が元気良く遊んでいる。
「お利口だな!」 『K』は安心して布団を干す作業に掛かっていた。
その頃娘は、ガラスの戸までハイハイで歩み寄ってきて、ママである『K』をガラス越しに見ていた。
この時点で、このあと起こる悲劇を誰が想像できただろうか。
『K』が布団を干し終わり、寝室に入ろうとしたとき、事態が急変する。
「あれっ?」 『K』は思った。
寝室に入るガラスの戸が開かないのだ。
最初は何かが引っかかっていて、開きにくいのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
「これは完全に鍵が掛かっている。」
「何故?」と考える暇も無く原因が『K』には解った。
娘が内側からロックをかけた様だ。当然ロックをかけようとしてやったのではなく、偶然手が鍵にあたり
閉まってしまったのだろう。
これで完全にベランダに閉じ込められた格好である。
このベランダは外へ飛び降りようとしても2階なので無理だ。
よっぽど、骨の2、3本を折れても良いという覚悟があれば別であるが・・・。
そんな覚悟は『K』には無い。というか、飛び降りたところで、次には家に入れないという事態に陥ることも解っていたのでやめた。
次にトライしたのは、「ガラスを割って進入する」という作戦である。
これは迷わず試みた。
当然、寝室への侵入は娘の「彗ちゃん」がいるから危険だ。
ベランダは隣の部屋にもつながっていたので、そちらを割ろうとしたが、結果は失敗だった。
そこで『K』が学んだことはひとつだった。 「ガラスは硬い」
「彗ちゃん。開けて~!」と『K』は叫びながら、そんなことを言っても無駄だと思った。
1歳の子には無理だ。
この辺から娘は泣き叫びだした。
それはそうだろう。ママがベランダから出てこないし、しかも、なにやらガラスを叩き割ろうとしている。
不審者以外のなにものでもない。
1歳の子にとっては、相当な恐怖なのかもしれない。
ガラス越しのママにすがりつくしかできない。
ガラス1枚の向こう側にママがいるのに、触ることもできない。
それはママも同じだ。
「彗ちゃん、ごめんね~。」 『K』はそう言ったが、どうすることもできない。
それから1時間は、悲惨であった。
娘は、寝室に閉じ込められて大泣き。
ママもベランダに閉じ込められて大泣きしたい心境。娘も心配だ。
ベランダから外を見て、はるか遠くにマンションがあり、住人の人影が見えるが、助けを求めても声が
届きそうにない。
絶望にかられていたそんなとき、隣に住んでいるSさんが庭に出てこられたようだ。
「すいませ~ん。」
『K』は頭で考えるより先に言葉が出ていた。
Sさんに助けを求めたのだ。
Sさんに『K』の実家のお母さんに電話をしてもらい、玄関の鍵を持って救出に来て頂いた。
助け出されるときに、『K』はお母さんがレスキュー隊に見えた。かどうかは不明である。
                                               終わり

One Response to “ある女『K』”

  • ある女『M』 says:

    ある女『M』も、昔、まさにおんなじ状況に陥った・・・
    しかも、東京に引っ越したばかりで、知り合いもなく、最終的に消防署へ連絡を入れた・・・
    ホンモノのレスキュー隊のお世話になった伝説の女『M』は、意外とあなたのそばにいるかもしれない・・・

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