社員ブログ

HAPPY BIRTHDAY

午前8時、京都に帰る新幹線に乗るために、東京駅から吐き出される人波に逆らって歩く。日比谷・大手町界隈から伸びる石畳、渡りやすくなった交差点、芝生、レンガ造りの駅舎。綺麗になった東京駅。この道を逆走していなかった人生を、ふと思う。そちらの人生を選んでいたら、あの頃と今の東京駅だけではなく、あの頃から今に変わってきた東京駅の変遷も、体感している自分がいたんだろうな。でもそれは一体どんな自分?

 あるいは もしも だなんて あなたは嫌ったけど

 時を遡るチケットがあれば 欲しくなる時がある

 あそこの分かれ道を 選び直せるならって

脳内に流れた昔の歌。歌詞を思い出しながら、ガラガラと小型スーツケースを引いて歩く。そうであれば、あの人にもあの人にも出会えていない。どこかに存在しえたかもしれないその世界は、とてもとても遠過ぎて、輪郭を捉えることすらできない。たった一つの分かれ道を、どちらに歩いたかというそれだけのことが、長い長いその後の人生につながり、そして今の自分の「世界」を作っている。可能性の世界を、置き去りにして。

 もちろん 今の私を 悲しむつもりはない

 確かに自分で 選んだ以上 精一杯生きる

 そうでなきゃ あなたに とても とても はずかしいから

世阿弥が言う「初心」という言葉は、「初めて臨んだ時の気持ち」ではなく、何歳になっても更新していく自分が、「後ろのドアを閉めて臨む時の気持ち」を指す。そうして初心は、常に上書きされていく。それまでに蓄えた経験や知識と、前の部屋にいた時を思い出に変える覚悟を携えた、新しい自分。後ろ手にドアを閉めて、立ち向かう新しい世界。後で気が付く大きな分かれ道もあって、結果的に何度も繰り返しドアを閉めてきた。

 あなたは教えてくれた 小さな物語でも

 自分の人生の中では 誰もがみな主人公

あなたの誕生日はいつだろう。何度も何度も、今のあなたが生まれた日がある。大きな偶然と、努力と結果。うまくいったと思ったことが、今の悲しみにつながっていたり、悔しくて泣いたことが、今の底力につながっていたり。東京駅を逆走する間にも、いろんな想いがよぎり、その想いももまた人ごみの中に消えていく。あの時が自分の誕生日。今もまた次の誕生日を目指して、この世界を駆ける。スーツケースを、ガラガラ引いて。

(歌:さだまさし「主人公」より)

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